「イカゲーム」というゲーミフィケーション

「イカゲーム」というゲーミフィケーション 

「イカゲーム」シーズン2全7話を見て直感でわかった。これはシーズン1を超える傑作だと。シーズン1を見た限りではここまで人間の汚い面を見せられたことがなかった。むしろ義理や人情に支えられてシーズン1は構成されていたがシーズン2はシンプルに人間の汚い面を視聴者に見せている。キーワードはいくつか設定できるだろう。私は三つのセンテンスに分けてこのシーズン2を総括したいと思う。まず”ゲームのための再ゲーム”というキーワードを選んだ。次に”選挙性と分断性”というキーワードを選び最後に”内外性と暴力性”というキーワードを選んだ。この三つのレベルに分けて「イカゲーム」シーズン2を解析してみよう。

”ゲームのための再ゲーム”

シーズン2の冒頭は主人公のギフンがゲームの在り方を巡って策謀を繰り広げるところから始まる。だがゲームの黒幕を倒すための策謀は見事に失敗し頓挫する(これがシーズン2内でいう”プランAの失敗”である)。次にプランBにフェーズは移動する。つまりギフンがゲームに参加しおとりとなることでゲームの本拠地をスパイングして別動部隊がそれを重火器類で叩くというフェーズに移行するのである。その間おとりとなっているギフンはゲームに参加しながらゲームへの反逆活動も考えることとなる。かなりありがちなシンプルな話の流れに見えるがバトルロイヤルの新鮮さがこの話のフローに組み込まれることでイノベーティブな未だかつて見たことのない種別の映像表現が可能になっている。かつてスティーブ・ジョブズはイノベーションのことを「これまでの既存技術を繋ぎとめて新しい価値を表現した魔法なようなもの」と定義した。「イカゲーム」シーズン2はイノベーションな複合体としてこの点で明らかに面白い表現作品となっている。

”選挙性と分断性”

また物語の各々のフェーズで明らかに人間の持つ心理分断性を見せているのもこのNetflix配信映像作品のうちの特徴であることは間違いないだろう。どうやらこの「イカゲーム」シーズン2の責任者は近年のSNSなどの影響力のある選挙性のことを想起しこのシーズン2の持つ隠喩として「イカゲーム」シーズン1を再構築したらしい。トランプ大統領の再選・都市国家的政治の実現・そして兵庫県知事選におけるSNS運動の役割。時勢の話題としては妙に一致しすぎた不確実性の要素を人間の古典的なバイアス心理学とからめて映像の中で徹底して表している。選挙の持つ腐敗性と分断性をアリストテレス流の民主腐敗性質つまり民主主義の本質的システムの現れ方にあてはめ上手いこと表現しているのである。トレンドに合わせた比喩がところどころ絶妙に利いており冒頭のファーストゲームからのフローとして中ダレしないように創意工夫が為されている。正確に言うと中ダレしてるなと思うところはあったがその直後直後にコショウが利くようにボディブローが入ってくるので飽きがこないのである。シーズン2の特徴をこれほどまでに象徴的に表す言葉は他にない。

”内外性と暴力性”

私は第三に”内外性と暴力性”というキーワードを挙げてみたい。というのもこのゲームはゲームが破綻する様子までを描く点でシーズン1とは違っている点がままある。つまり外部からアクセスできる可逆的なゲームという点でこれまでのシーズン1とは明らかに違っているのである。とはいっても破綻までは完全に描き切るのはシーズン3までを含めての節はあるが。だがゲームの外部からジュノチームがアクセスする最中でメインとしてのゲームの内部はギフンの試みが描かれているわけでこれこそがまさに「イカゲーム」シーズン2の内外性を構築する要素だと言える。はっきり言っておくがギフンとジュノによるプランBは恐らくシーズン3で最終的に成功するのだろう。だが外部チームと内部チームが「イカゲーム」のシステム的浸食を行うという点でシーズン1とは違ったもう一つ広まった世界観を呈しているのがシーズン2の特徴なように思う。だからこそ緊迫感が新たにゲームの周辺に付加されていて面白味の要素が増えている。そしてより深刻に表現される銃器類での暴力性は妙にこの内外性と重なるところがあり彼らゲームの参加者が自らの意思で反逆的な選択をするというその”幅”が広がっているというところが凄いのである。これこそが「イカゲーム」のゲーミフィケーション要素のより強くなったオープンワールドな試みだと思う。「イカゲーム」とはそういう意でまさにゲームなのである。

シーズン3に向けて

私はこのシーズン2を見て韓国の映像産業はやはり凄まじい技術力を持っているなと思った。アイドルや音楽などを始めとして国策としてこうしたエンタメ産業に力を入れているとはよくよく最近聞くものだがアジア圏と欧米圏の文化の密接さというのだろうか。文化のミクスチャは日本人のお得意十八番だとよく言うがこの分野では間違いなく韓国の映像スタジオのほうが先をいっていると思う。先に書いたようにシーズン3では間違いなくENDINGまで行くわけでありゲームそのものが破綻され解決される様子まで描き切るのだろう。シーズン2ではそうした人間的に妥当なラインへの復活までは描かれているわけでない。シーズン2全7話はこうした”ゲームのための再ゲーム” ”選挙性と分断性” ”内外性と暴力性”という三つのキーワードで全てが表現できるほどだ。そしてそこに人間的な妥当なライン引きが為されることでシーズン3にて「イカゲーム」の物語は終わるのだろうとは予測できる。そこに裏切りやゲームのいわばエラー要素が絡まることで面白味が増していくのだろうこともまた予測できる。シーズン2はそこまでの布石が敷かれているに過ぎない。ギフンがゲームの向こう側から生きて帰ってこれるのか?これについてはシーズン3の公開まで待つ以外ないだろう。

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