私がこの記事を書こうと思ったのは理由がある。それを朧気ながら思い出してみよう。私はネットを今朝漁っていたらファミ通の「ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist」のゲーム開発者インタビューが目に留まったことがきっかけでこのことを深く考えるようになったのだ。このインタビュー記事の中で関係のあるゲーム会社の代表はこう語っている(ファ三通の記者NiSHi・河合ログ・林克彦お三方によるBinary Haze Interactiveの代表小林宏至に対するインタビュー記事)。インタビューされている会社の代表小林氏はこう語る(以下ファミ通より)。
――スタッフを増やす予定はあるのですか?
小林
メンバーをどんどん増やすというイメージはなくて、いい人材がいれば増やす、というスタンスです。無理に増員するということでないです。
Binary Haze Interactiveの3本目となる『エンダーマグノリア』はもうすぐ世に出ますが、なんというか、気心の知れたスタッフと作るのが、やはり楽しいんですよ。彼らとまた新しい作品を作りたいと思っていますので、そこに混ざってくれる人は探しますが、開発ラインが足りないからといって大量に採用することは考えていないです。
――強引にラインを増やしてゲームを作って、とにかく売り上げを増やすというやりかたは取らずに、そうではなくて自分たちらしいやりかたを貫くということですね。小林
その通りです。売上を増やすという方向に舵を切るのは危険だと思います。基準がお金になってしまうと、いろいろな判断を誤ってしまいがちです。うちは上場もしていないので、自分たちらしいやりかたができる居場所を守りたいです。
この中で小林は確かに答えている。売上を増やす(事業規模を拡大する)という方向に舵を切るのは危険だと。事実波に乗ったバブル期に事業拡大の方向に舵を切ったスーパーマーケットは軒並み経営破綻している。北海道拓殖銀行にも当てはまるように銀行業でさえ同じだ。言われてみればわかるが規模拡大の路線はキャッシュフローを悪くする。宋も語るように事業を立て直すには事業規模を縮小しキャッシュフローを良くするという常識的な考え方が必須なのである。ゴーンに始まりスナールの経営手法も全く同じコストカット方針だ。考えてみれば当たり前のことを再生請負屋はしてきたのである。
そもそもゲーム会社は規模が小さくてもソフトウェア産業のノウハウと強みを十分に生かして戦うことができる。このことは事態の状況をより複雑にしている。ゲーム開発者はそもそも事業拡大を見込んで経営しているわけではないしそれがベンチャーだったらなおのことである。本来ゲーム会社というものはゲームで人々を楽しませそれが利益につながるという好循環を生み出したいがため設立されたはずである。この初歩的な点に多いなる勘違いがあるからこそTBSや集英社や講談社がゲームのパブリッシング事業で軒並みうまく行っていないのである。つまりゲーム会社はまず顧客がいてその顧客を楽しませることを目的としているはずであって資本主義の名の下にラインを無駄に増やし経営を拡大することが先行しているはずではないのだ(本来は)。
もちろんありとあらゆる産業分野でも同じである。元来は拡大したいからこそ事業を立ち上げるのではなく事業を通じて叶えたい人々の夢があるからこそ事業が拡大していくわけだ。ここに至って元来あった判断の基準を設定することは極めて難しい局面・迷宮に入ってしまう。だが考えてみれば当たり前のことを既存の会社法人はまともに考えたことがないのである(もしくは忘れてしまっている)。フロムソフトウェアが設立されたころソイツがKADOKAWAグループの傘下に入ることを想定していたゲーマーがほとんどいないように。意外なことだが考えてみれば当たり前。でもことの本質に思いをはせる人はあまりいない…