名著精読記録「SFアニメと戦争」高橋杉雄

第六章 SFアニメにおける戦争

第六章も私の頭ではなかなか理解が出来なかった。論が行ったり来たりするので難しい。ヤマト初期のころの設定の甘さがリメイクによって洗練されていったのは時代の要請に答えてのことだとの指摘が入ったりかたやエヴァンゲリオンにおいてはアイデンティティーの問題があってこそという論があったりとなかなか読み解きにくい印象を持った。ただ論の流れぐらいはわかる。本質的には相互理解➡同盟➡戦う合理的理由➡アイデンティティーというようなフローが存在する。例えば特定の作品では宇宙生命体と同盟を組むシーンがあったりと完全な敵という立場は実は裏を返せば曖昧であることが現代の国際政治においてままあるという。それがヤマトとガミラスに相対するように存在する日本と米国である。

ガミラス艦隊とヤマトとの同盟関係は意図せずしてヤマト側がガミラス民間人を救ったことから発起されるがこれは現実的に十分ありえるという。例えばそれは広義の意味において杉原千畝のユダヤ救出事例だったりするわけだ。そしてこのような同盟は共通の敵(ヤマトでいうガトランティス)がいるならばそれにまず対応せねばならないというエゴイズムから導き出されている。さらに突っ込んで言えば欧米流の勧善懲悪さが日本のアニメ文化にはないということが挙げられるだろう。この点を高橋は強くは描いていないが感情の論を拠として本書のこの第六章の中に大きく盛り込んでもそれはそれで問題がない気がした。次回はこういったセンチメンタルな切り口もあっていいのではないか?

史実においては漫画家の小林も言うように日本は米国と世界を二分する大戦争(第二次世界大戦・太平洋戦争)をやった。だが戦後半世紀以上が経ち世界で最も強固な同盟関係を軍事的に構築している。この現状にもちろん異論もあるだろうが空想の世界で描かれたような同盟ー合理的なものーは現実に後続して描かれていて決して軽視されるべきご都合主義ではない。ヤマトではそういった同盟関係があるがそれは史実においても現実に存在するものである(日米同盟の例)。ここに至って高橋は空想の中で描かれているSF的な戦争が収束し(筆者本人は「あくまで考察に過ぎない」とある意味において自らの論の発展性自体を否定するものの)実は現実とSFアニメは高橋は言うほど以上にリンクしていることが結論として指摘できるのではないだろうか。

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