Steamゲームレビュー「ゲーム業界出世街道 (Crush the Industry)」

ゲーム「ゲーム業界出世街道 (Crush the Industry)」は近年乱造されているローグライトゲームの中でも屈指の出来を誇る白眉である。最近日本語ローカリゼーションが実装されたので時限的な魅力は半減しているがその真価はいくら誇張しても誇張しすぎではない。それほど絶賛するべきゲームである。何と言ってもユーモラスなインターフェースやグラフィカルな要素が素晴らしいのは目に留まる。それは往年の名作「MOTHER」シリーズの影響下に見られるようにデザインとして優れているのだ。だが表面上見える点だけで評価してはいけない。このゲームには本質的な中身があるからだ。探なるブラックゲーム開発会社を舞台にしただけのゲームではない。その意で統合的なエンタメといった方が良いか。

まずターンベースのゲームであるのにもヒットポイントはリアルタイムで敵の被ダメージに従い減衰していく。例えば15DMG喰らったとしよう。その15DMG分はリアルタイムで減っていく。つまりターンベースですべてのステータスが割り振られているのではなくターンベースの中にリアルタイム進行のシステムを概略的に取り込んでいるシステムとなっている。これによって15DMG喰らったところで15ポッキリターンベースのターン中にヒットポイントが減衰するわけではない。つまりDMGを喰らいながら時限的にリアルタイムで減っていくヒットポイントが少しでも残っているときにその間敵を倒しきればゲームプレイは成功し進行し続けるのである。妙に言葉では表現しにくいがこれがこのゲームが立脚している論の本質的な内容である。

またデッキビルドの要素を既存のローグライトの定型的にあてはめているのは正当に評価ができる。デッキはカード式で割り振られシャッフルされた三択カード(カードデザインではなくタブボタンといった方が正しいが)を次々と選択していく。これによってパワーエネルギー消費によってカードを切ることでシールドをヒットポイントに上乗せしたり様々な条件のDMGコマンドを遂行したりステータス異常を敵に与えたりすることができる。もちろんそういったステータス異常はクトルゥフ系のゲームにあるSAN値のように自分の側にも戦闘を通じてあてはめられていく。非常にシンプルな構成でシンプルな組み込みを実現しているゲームであるがその反面シンプルさゆえ奥深さがあるのだ。

ローグライトよろしく道中の購買店で特殊な能力を購入出来たりステータスをアップさせる第三交絡もある。またステージのルーティングは自分で決められる範囲が一定程度自由にありその行く末を見少しながらボス戦でボルテージMAXの状態で挑むためのシミュレーション的戦略性もあると言える。本作はいわばこうした複合材のような様相を呈しておりゲームの完成度は極めて高い。いいとこどりのローグライトゲームになっているといえるだろう。ゲームオーバーになるたびに極端に強くなることはないが活用できるアンロック要素がある。MODが標準で実装されていて難易度の低減やプレイのしやすさ(あるいはアンロックされる高難易度モードもあるように)そこに柔軟性をもたらすことでゲームとしての完成度ややりこみ性はより高まっている。

プレイヤーのゲームプレイ自体が上手くなるということをゲーム体現の主体としながらも難易度の調整システムにも貢献すべき交絡要素が数多く存在していて魅力的なローグライトゲームのお手本といえる。これまでこのゲームが日本語ローカリゼーションに対応していなかったのが不思議なぐらいだ。というかもったいないといった方が正しいだろう。リリース初期から日本語ローカリゼーションに対応していれば日本でも旋風を巻き起こすポテンシャルは十分あったはずだ。今後アーリーアクセスを脱出して本リリースに至るときはその爆発的なヒットに期待しているのが私の基本的なこのゲームに対するスタンスである。マジで絶賛すべきタイトルだ。

またゲームを彩るチップチューンにも注目すべきだろう。特にファーストステージのボス戦で流れる曲「Community Overlord」は人気があるらしく見事な音楽性を持っていると思う。旧作「ロックマン」シリーズとも違う独特なリズムを基盤としたノリノリのチューン性のある音楽はコミカルなゲームデザインに見事に合致していてそのバックグラウンドにおける流れ・フローにふさわしいものになっている。各ボス戦のBGMも素晴らしくゲームの盛り上がりを別な色彩で彩っている。日本語ローカリゼーションに対応した今ならばがっつりフルプライスで購入する価値がある一作と言っていいだろう。Steamで一か月ぶりに後悔のないゲームの買い方が出来たと私自身は思う。

タイトルとURLをコピーしました