漫画家ぽむによる漫画「先輩はおとこのこ」の魅力について

漫画家ぽむによる漫画作品「先輩はおとこのこ」ほど特異なデザインを持つエンタメは昨今他にないと私は思う。もともとこの漫画作品はTwitter(現在のX)に投稿された「おとこのこが後輩に告白される話」がルーツになっている。Twitterに掲載された4ページの短い原案の発表が2019年7月のこと。その後に「LINEマンガ」にて2019年12月7日から本編が連載開始となり2021年12月30日に見事完結(主にこれが後述するアニメ版の土台となっている)。さらにはその土台となっている本編の前日譚を描く「先輩はおとこのこ 出会い編」として2023年12月21日に連載がリニューアル&再開され現時点でも執筆が続いているということである。

漫画「先輩はおとこのこ」は”男の娘”である花岡まことを主人公として「男女3人の人間模様と繊細な心理描写」(Wikipediaより)を描いている。いわば捻りを加えたジェンダー漫画といえないこともない。だが本質的にはジェンダーに特化した内容ではないことも原作者ぽむの言により明らかになっていて「人間が問題を抱えたときどうやってその解決策を導くか?」という常識的で広めのレンジで話は構成されている。単行本はフルカラーで講談社系のエンタメ出版を手掛ける企業一迅社より刊行されている。全十巻。

2021年第4回「アニメ化してほしいマンガランキング」で同作が3位に翌年2022年第5回同ランキングでは1位を獲得。「次にくるマンガ大賞2021」ではWebマンガ部門3位を獲得。さらには「LINEマンガ 2021上半期ランキング(女性編)」で第6位を「LINEマンガ 2021年間ランキング(女性編)」では第3位をそれぞれ獲得している(このあたりの評価経歴はWikipediaのページを参考にしてまとめた)。簡単に踏まえると捻りの効いた舞台設定・本編の真っ向勝負な作風の兼ね合いに対する評価が高い。「漫画の持つ一般性」に果敢に挑戦した意欲作といえるだろう。その点が高くレビューされているようだ。

映像化にも成功している。2024年7月から9月までのクールにて今揺れているフジテレビのノイタミナ枠で放映されこのテレビアニメ版の続編となる劇場アニメ「映画 先輩はおとこのこ あめのち晴れ」も2025年2月14日に封切りが始まった。YouTubeのコメント欄でもこの映画化作品には高い評価が与えられているようだ。とあるファン曰くところによれば「多岐に渡るテーマ性をミクスチャした魅力ある作風」で作られているという。「泣ける作品」との評価まで存在する。垣間見るに原作やアニメーションが魅力あふれる多様な要素の集合で構築されているがゆえ読者・視聴者によっても評価が多様化しているということが伺い知れる。

私はさわりだけ今作のアニメ版を見てその魅力を実感するとともに如月かずさによるジュブナイル小説「スペシャルQとなぼくら」(出版は奇しくも親玉・講談社である)を思い起こした。読者層の評価はかなり近いものがあると言っていいだろう。単にLGBTQのことを言っているわけでなく人間元来の持つ多様な価値観・ちょっと大げさに言えば大きな意味での人種の隔たりや偏見を乗り越えたヒトという存在について考えさせられる内容になっているのだ。原作もアニメも恐らくば同じようなものだろうと推定したうえでのことだが….。

もちろん両手で称賛するわけでもない。ジェンダーをテーマに取っているがゆえ禁忌とされる要素も人によってはあると思うし典型的な無理身な設定にも批判は集まりそうだ。だが価値観のテントを幾重にも重ねどこにその真価があるのか?ということを如実に描きただした功績は漫画界でひときわ輝く。特殊性と普遍性をともに両立させた点は素直に称賛すべきだと私は思っている。「個々人たるヒトが集合したときその組織を構成する各個たるヒト自身にとって真に大切なものとはなにか?」テーマはその人間性の根に価値をおろしているといえるのだろう。

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