軍事ジャーナリスト:黒井文太郎が指摘するベネズエラ情勢~その本質は複雑怪奇の魔境


As the well-known Japanese journalist Buntaro Kuroi has noted, the Venezuela crisis is an extremely complex issue. The Trump administration in the US has claimed that “Nicolás Maduro is a drug lord,” but there are alternative perspectives. This is neither a simple structural problem nor an issue limited solely to Maduro and his inner circle. While Trump seems unwilling to engage in a long-term military conflict, the possibility of short-term military intervention remains.


軍事ジャーナリスト:黒井文太郎が2019年JBpressにてベネズエラ情勢を解説している。私はJBpressのプレミアム会員ではないので記事のすべてを見てないが中立性を保ったうえで書かれている【これぞジャーナリストの仕事】というべきかなり参考になる記事であることには間違いない。黒井によればベネズエラ情勢の発端はニコラス・マドゥロ現大統領にあるという。2018年の大統領選では野党候補が選挙戦をボイコット。その中でマドゥロが先導する反米左翼政権が出来て野党側は憲法の規定に沿ってフアン・グアイドを暫定大統領に据えた。外交上の理由によりキューバ・ニカラグア・ボリビア・ロシア・中国・イラン・トルコなどもマドゥロ支持側に立っているのだ。マドゥロは「混乱の背景にはアメリカの操作による政権転覆(クーデター)を目的とする動きがある」として米国をはじめとする西側諸国に反発している。

しかしながら黒井はベネズエラの混乱はマドゥロ政権による失政が祟ったハイパーインフレにあるとしている。ハイパーインフレは庶民の生活を直撃しこれに反発する国民側を力で抑えてきたのが当のマドゥロ政権である。軍警を使って武力弾圧をしてきたのがマドゥロなのである。このハイパーインフレはなぜ起きたのだろうか?まず石油の価格が安定しすぎて資源輸出に依存するベネズエラ経済にとって大きな打撃になっていることが発端。国家財政に危機が走ったのでマドゥロは赤字を埋めるため通貨を発行しまくった。当然こういった財政出動は通貨の暴落を招く。物価は相対的に上昇したのだ。通貨の単位を切り下げる対インフレーション政策(デノミネーション:所謂デノミ)も根本的には問題の解決には至らなかった。米国による経済制裁なども重なり国民情勢は悲惨なものになっている。元々悪い治安はその悪化に歯止めがかからない。

さて状況は”更新”されている。現に黒井はXポストで状況を示す。「政権と国軍が麻薬マフィアそのもの」で且つ「自国民を弾圧しまくる人道犯罪集団でもある」ということからトランプが激怒している背景にはそれなりの妥当性があるというのが事実だ。「シンプルな話ではなく」「かなり難しい問題」である…そう黒井は述べる。恐らくトランプはベネズエラに地上戦を仕掛けるだろう。ANNがそのYouTube動画で報道するところによれば米国の自治領プエルトリコには既に「上陸作戦に備えた強襲揚陸艦が配備」され「約1万5000人」の軍人が訓練を受けカリブの海に配備されているという。また「ジェラルド・フォードなどの空母打撃群」に加え「原子力潜水艦」や「F35」も配置されたという。それほどトランプは南米に点在する反米左翼政権を敵視している。というのもその根幹に黒井も指摘する「アメリカの麻薬問題」が外交的に根強くある。

ただし反論もあるようでマドゥロ政権としてはここを狼煙にしている節がある。というのもトランプが言うように麻薬カルテル=マドゥロ政権では決してなくむしろそれ(マドゥロ政権)を構成する高官や軍幹部による腐敗を主とした非合法的な利益供与のネットワーク網に部分的にあるだけだという見方をする論もある。直接的なカルテルを現政権が築いているわけではない…そういう反論である。2025年にトランプ政権は「Cartel de los Soles(太陽のカルテル)」を外国テロ組織(米国国務省指定の危険組織…Foreign Terrorist Organization:FTO)に指定「マドゥロ政権および幹部をその主体組織と見なす」と発表しているが「これは言い過ぎである」という反論も根強くあるわけだ。マドゥロの政権維持はこれが名目的なものになっている。

恐らくばトランプはベネズエラに長期的な戦争を仕掛けるつもりはないだろう。なぜか?超強力なトランプ政権にとっても長期戦争は自国の民主的パワーにとって強い障害になるものだからだ。アメリカ国民・特に共和党支持筋は先の中東での戦いの苦みを未だに理解している。長期的戦争ではなく短期的かつ局所的戦闘に落ち着かせ先進テクノロジーを用いた苛烈な一撃をマドゥロ政権に与えることがトランプの持とうとする戦略ではないか?マドゥロ政権そのものこれを失脚させることができればトランプは当初の目的を一定程度達成することになる。特に麻薬の根本的原因を絶てればトランプは「米国の第一利益」という目標を達成できる。アメリカ国民の多数が支持し続けないであろう長期戦争にはトランプとしても興味がないはずだ。だがしかしアメリカ低層の麻薬流通状態はアメリカの治安や公安を常々脅かしているという歴然たる事実はある。黒井が言うようにベネズエラ情勢はかなり複雑・魔境なのである。