ブータンはなぜ暗号通貨に手を出したのか?


Bhutan’s national policy is Gross National Happiness (GNH). However, Bhutan is suffering from population outflow. This is due to high youth unemployment and a fragile economy. On the other hand, Bhutan is an advanced nation in terms of cryptocurrency policy.


序論:人口約80万人の小国ブータン。「国民総幸福量(GNH)」を重視する国として知られるが現在は人口流出に悩まされている。英語教育をはじめとする教育重視の体制とは裏腹に経済的な苦境を克服できていないためだ。特に若者の失業率は高止まりし国内の若者たちは自国の現状について「チャンスがない」と率直に語る。そのような国難の中ブータンは暗号通貨やその仕組みを苦に施策に取り入れようとしている。その背景には何があるのだろうか?また暗号通貨施策の特徴とは?


1:水力発電と観光業しか主要産業がなく国民の多くは“それほど”幸福ではないと感じているのが実情だ。1972年に当時の国王が提唱した「国民総幸福量(GNH)」の概念は今揺らいでいる。根付いている観光業のための売り文句に過ぎない・「幸せの国」という建前やレッテルを作るために過ぎないという批判者もいる。さらに近年は頼みの水力発電もエネルギー価格の高騰によって打撃を受け外貨準備高が急減したという。将来への見通しが立たない中若い学生たちは得意な英語力を駆使し留学を志す。特に優秀な若者が夢見てオーストラリアへと旅立ってしまっている。

2:こうした苦境の中ブータンが新たに見いだした活路がビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)といった暗号資産である。政府系投資機関であるDruk Holding and Investments(DHI)がETHステーキングを開始したのだ。DHIに関連するとみられるアドレスからFigmentを通じて320ETHが預け入れられたという。これは現在の価格で日本円に換算すると約1億4000万円に相当する。事実上ブータン政府主導でステーキング運用が始まったことになる。ゲヲログもかって解説したがブータンは国家レベルでBTCトレジャリーやETHトレジャリーの戦略を取ることとなったわけだ。

3:さらにブータンはおよそ80万人に上る国民のデジタルID(日本で言うマイナンバーID)をイーサリアムネットワーク上へ移行する計画も進めている。このブロックチェーンを活用した国民ID管理プロジェクトはゼロ知識証明技術を活用して個人情報を保護しつつ本人確認を可能にする仕組みを構築するものだ。ブータン国民はこの仕組みを活用することで安全かつ先進的に公共サービスにアクセスすることができるようになる。個人番号を公開ブロックチェーンに接続するのは世界初の試みでありこのプロジェクトは2026年初頭に完了が見込まれている。ETHの首脳陣(宮口あや・ヴィタリックブリテン)もこの試みを高く評価しているという。

4:ブータンの暗号資産分野への関与はこれが初めてではない。同国は豊富な水力資源を活かしたBTCマイニングで以前から知られており同国DHIは暗号資産という言葉が我々一般に広く認知される以前の2019年からマイニングを開始していた。送電には余計なカネがかかるので森の中にマイニング工場を持った方が利率が良いのだ。BTC/ETHをトレジャリー資産として扱う特別行政区Gelephu Mindfulness Cityも存在する。ブータンはBTCトレジャリー戦略の先駆的取り組みによりアメリカ・中国・イギリス・ウクライナに続く世界五番目のBTC運用国になっている。実にGDPのうち40%の13億ドルをBTCとして保有している。


結論:南アジアの小国「幸せの国」という言葉が印象的に先行しがちであるブータンのイメージは今内実共に変わりつつある。統計的な幸せの尺度がある前提でも日本に及ばない現状がある他そもそも「国民総幸福量(GNH)」に関しては国の施策として適切ではないという批判もある。それは人々の主観であり幸せの尺度そのものがその時その人によって変容し続けるからだ。暗号通貨施策はブータンにとって吉と出るか凶と出るかはわからないが国そのものの転換点となっているのは間違いないだろう。